10kW以上の野立て太陽光発電(産業用)を譲渡・売却する際の名義変更手続き【2024年4月改正対応】
経産省・電力会社・法務局+住民説明会まで完全網羅——多機関対応の落とし穴を丁寧に解説
「節税のため中古太陽光発電所を購入したい」「そろそろ太陽光発電設備を相続対策で売却したい」などの理由から——再生可能エネルギー市場の成熟に伴い、設備のセカンダリー取引(売買)が非常に活発になっています。
しかし、ここで多くの個人や事業者で直面する問題、「普通の不動産売買とは全く次元が違う、国の手続きの複雑さ」があることを紹介いたします。 2024年4月の法改正により再エネ(太陽光等)発電システム名義変更が難しくなってきたことが原因で中古売買が停滞するような事態となってきています。この発電システム売買契約においては、売主・買主双方が発電設備認定手続きの困難さを理解したうえで対応が必要と考えます。
土地や建物の名義を変えるだけでは、売電収入を受け取ることはできません。FIT(固定価格買取制度)の認定は、「設備」ではなく「事業者」に紐づく権利だからです。これを正しく引き継ぐためには、経済産業省、電力会社、法務局という3つの異なる機関での手続きを、正しい順序でクリアする必要があります。
さらに2024年4月からは、法改正により「住民説明会・事前周知措置」という新たなハードルも加わりました。
本記事では、この「地獄」とも形容される複雑な手続きの全体像を整理し、どこから手を付ければよいのか、どのような落とし穴があるのかを、実務的な視点で丁寧に解説します。全体像を掴むことで、トラブルを回避し、スムーズな事業承継するためには手続きに精通した専門の行政書士に依頼しましょう。
目次
- 第1章:なぜ「名義変更」はこんなに複雑なのか?
- 第2章:【2024年4月〜の重大な追加要件】住民説明会・事前周知措置
- 第3章:3つの手続き機関と手順の全体像
- 第4章:2024年4月以降の変更点と書類不備チェック
- 第5章:名義変更を後回しにするとどうなるか?
- 第6章:自分でやる?専門家に頼む?判断基準
- 第7章:2025年度以降の地域共生要件と事業者の責任
- まとめ
第1章:なぜ「名義変更」はこんなに複雑なのか?
太陽光発電所の売買が「単なる不動産取引」ではない理由は、FIT制度(固定価格買取制度)の特殊性にあります。国から認定された「20年間決まった価格で電気を買い取ってもらう権利(ID)」は、土地や設備に自動的に付随するものではなく、事業者(人や法人)に対して付与されています。
そのため、所有者が変わるたびに、国(経産省)に対して「私が新しい事業者として責任を持ちます」と宣言し、審査を受ける必要があるのです。
3機関への手続きフロー
名義変更を完了させるためには、以下の3つの機関それぞれに対して、適切な順序でアプローチする必要があります。どれか一つでも欠けると、正常な売電事業が継続できません。
1
経済産業省
(JPEA代行申請センター)
FIT認定の
事業計画変更認定申請
2
電力会社
(送配電事業者)
電力受給契約(売電契約)の
名義変更
3
法務局
土地・建物の
所有権移転登記
さらに、2023年から2024年にかけての相次ぐ法改正により、手続きは厳格化しています。かつては「事後届出」で済んでいたものも「事前申請」が必要になったり、提出書類が増えたりしています。これは、「放置された発電所」や「責任所在が不明な設備」をなくし、地域と共生できる優良な事業者を残すための国の施策です。
第2章:【2024年4月〜の重大な追加要件】住民説明会・事前周知措置
⚠️ ここが最も重要な変更点です!
2024年4月1日施行の改正再エネ特措法により、事業譲渡(名義変更)を含む事業計画の変更認定申請を行う際、原則として申請前に周辺住民への「説明会」または「事前周知」を行うことがFIT認定の要件となりました。これを実施しないと、名義変更の手続き自体が進められません。
2-1. 制度の背景と目的
これまで、太陽光発電所の持ち主が変わっても、地域住民には知らされないことが一般的でした。しかし、「ある日突然管理者が変わり、連絡がつかなくなった」「草刈りがされず迷惑しているが、誰に言えばいいか分からない」といったトラブルが多発しました。
今回の改正は、「新しい事業者が誰で、どのような管理体制で運営するのか」を地域住民に事前に伝え、理解を得ることを義務付けるものです。
2-2. 規模別の必要措置
必要な手続きは、発電所の規模(出力)によって異なります。ご自身の設備がどれに該当するか、必ず確認してください。
| 規模 | 措置の種類 | 詳細 |
|---|---|---|
| 10kW未満 (住宅用など) | 不要 | FIT認定要件の対象外です。 |
| 10kW以上 50kW未満 (低圧)野立て | 事前周知措置(原則) | ポスティングや看板設置等による周知。 ※ただし、影響が高いエリア内の場合は説明会が必要 |
| 50kW以上 (高圧・特別高圧) | 説明会(原則) | 変更認定申請の3ヶ月前までに開催必須。 非常に重い手続きとなります。 |
※「影響が高いエリア」とは?
低圧(50kW未満)であっても、以下のエリアに含まれる場合は「説明会」が必要です。
- 森林法による林地開発許可の対象エリア
- 宅地造成等規制法の許可対象エリア
- 土砂災害警戒区域
- 条例で定める自然環境・景観保護エリア 等
2-3. 説明会が必要なケース(50kW以上の場合)
高圧案件や、低圧でも影響エリア内にある場合は、以下の厳格なルールで説明会を開催する必要があります。
- タイミング: 経済産業省への変更認定申請を行う3ヶ月前までに開催する必要があります。つまり、譲渡契約を結んですぐに申請できるわけではありません。
- 住民の範囲: 原則として、敷地境界線から水平距離300m以内に居住する住民。
- 開催告知: 説明会開催日の2週間前までに、ポスティング等で日時・場所を周知。
- 事前相談: 住民の範囲について、あらかじめ市町村に相談する必要があります。
- 記録と報告: 説明会の様子(全景写真や録音)、配布資料、質疑応答の記録、出席者名簿を作成し、認定申請時に提出します。
- 運営: 住民の不安を解消するため、旧事業者だけでなく、これから責任を持つ新事業者も出席することが強く推奨されます。
2-4. 事前周知措置のケース(50kW未満低圧の場合)
多くの野立て低圧案件はこちらに該当します。説明会よりは簡易ですが、ルールは厳格です。
- 対象範囲: 敷地境界線から水平距離100m以内の居住者。
- 周知方法: 文書のポスティング(投函)が基本。戸別訪問や回覧板、現地への看板設置も認められます。
- 周知内容: 新事業者の氏名・住所、連絡先、維持管理体制、廃棄時の積立計画など。
- 質疑応答期間: ポスティング等を実施した後、住民からの質問を受け付ける期間が必要です。原則として、周知実施から一定期間(推奨は2週間〜1ヶ月程度)経過後でないと申請に進めない場合があります(※自治体やケースにより異なるため要確認)。
※例外:低圧でも、100m以内に同一事業者や密接関係者の発電所があり、合計して50kW以上になる場合は、高圧同様に「説明会」が必要になる可能性があります。
2-5. 譲渡時の特有の注意点
譲渡(名義変更)の場合、住民の最大の関心事は「前の人と違って、ちゃんと管理してくれるのか?」「何かあったときの連絡先はどこか?」という点です。
周知資料には、単に名前を変えるだけでなく、「緊急時の連絡先」や「除草・メンテナンスの計画」、「将来のパネル撤去・廃棄費用の積立状況」について明記する義務があります。これを怠ると、周知措置として認められず、FIT認定の変更が受理されないリスクがあります。
第3章:3つの手続き機関と手順の全体像
ここでは、第1章で触れた3つの機関での手続き詳細を解説します。順番を間違えると手戻りが発生するため注意が必要です。
①経済産業省(再エネ電子申請):事業計画の変更認定
これが「本丸」の手続きです。WEB上の「再エネ電子申請システム」を使用します。
- 申請方法:
- 50kW未満:原則、電子申請のみで完結。
- 50kW以上:電子申請で情報を入力後、印刷した申請書と添付書類を郵送する必要があります。
- 主な必要書類:
- 変更認定申請書(システムから出力)
- 事業譲渡証明書(または譲渡契約書の写し)
- 新旧所有者の印鑑証明書(発行3ヶ月以内)
- 新所有者の住民票(法人の場合は履歴事項全部証明書)
- 土地の全部事項証明書(登記簿謄本)
- 説明会実施報告書 または 事前周知措置実施報告書(2024年4月〜必須)
- 太陽電池モジュール含有物質情報(2024年度以降)
- 審査期間: 通常1〜3ヶ月程度。書類不備があると半年近くかかることもあります。
- 重要ポイント: 旧所有者から「設備ID」「事業者ID」「ログインID/パスワード」を確実に引き継いでください。これがないとシステムにログインできず、手続きがスタートできません。
②電力会社:売電契約の名義変更
経産省の変更認定が「完了」してから(または申請受理後)に行います。売電収入の振込先口座を変更する重要な手続きです。
- 各電力会社(東京電力、関西電力など)所定の「名義変更申込書」を提出します。
- 多くの場合、経産省から発行される「変更認定通知書」の写しの添付を求められます。
- あわせて「売電料金振込先指定書」を提出し、新所有者の口座を登録します。
③法務局:土地・設備の登記変更
土地付き太陽光発電所を購入した場合は、不動産登記(所有権移転登記)が必要です。
- これは通常の不動産売買と同様、司法書士に依頼するのが一般的です。
- 地上権設定や賃借権設定がされている場合も、権利の移転手続きが必要です。
第4章:2024年4月以降の変更点と書類不備チェック
新制度下では、以下のポイントで不備が多発しています。申請前に必ず「ダブルチェック」を行いましょう。
書類不備になりやすいワースト3
- 住民周知の記録不足: 「ポスティングしたチラシ」はあっても、「投函した範囲の地図」や「投函している写真」がない。
- モジュール情報の未登録: 2024年度から、使用している太陽電池モジュールの有害物質(カドミウム等)情報の登録が必須化されました。古いパネルの場合、メーカーに問い合わせが必要なことがあります。
- 印鑑証明書の期限切れ: 審査が長期化し、提出時点で3ヶ月を過ぎてしまうケース。取得は申請直前にしましょう。
また、「発電側課金」への対応として、電力会社との契約内容(契約電力等)の再確認が求められる項目も申請画面に追加されています。不明な点は電力会社への事前確認が不可欠です。
第5章:名義変更を後回しにするとどうなるか?
手続きが面倒だからといって名義変更を先送りにしていると、取り返しのつかないリスクが発生します。これらは「脅し」ではなく、実際に起こり得る実務上のトラブルです。
- 売電収入が旧所有者に入り続ける: 電力会社への手続きが終わらない限り、振込先は変わりません。後から旧所有者に返金を求めるのはトラブルの元です。
- FIT認定の失効リスク: 実態と登録情報が異なる状態が長期間続くと、最悪の場合、認定取り消しの対象となります。
- 保証・保険が使えない: パワコンが故障した際、メーカー保証を使おうとしたら「名義人が違う」として断られる可能性があります。火災保険も同様です。
- メンテナンス契約の空白: 旧所有者がO&M(保守点検)契約を解約し、新所有者が未契約の場合、誰も点検していない「空白期間」が生まれ、事故のリスクが高まります。
事業譲渡契約と同時に手続きをスタートさせ、可能な限り空白期間を作らないことが、安定した収益確保への第一歩です。
第6章:自分でやる?専門家に頼む?判断基準
ここまで読んで「自分には難しそうだ」と感じた方も多いかもしれません。自分でやるか、専門家に任せるかの判断基準を整理しました。
自分でできる可能性がある方
- 50kW未満(低圧)の案件で、かつ「住民への影響が高いエリア」外である。
- PC操作や電子申請システムに慣れており、マニュアルを読み込む時間がある。
- 旧所有者と連絡がスムーズに取れ、書類のやり取りに協力してもらえる。
- 現地(発電所)の近くに住んでおり、ポスティング等を自分で実施できる。
専門家への依頼を推奨するケース
- 50kW以上の案件(説明会必須): 運営や市町村協議の難易度が高いため、プロの支援が必須級です。
- 遠隔地の物件: 現地での周知措置を行うのが物理的に困難な場合。
- 時間がない・ストレスを避けたい方: 不備対応の手間を考えると、コストを払ってでも丸投げするメリットは大きいです。
専門家費用の目安
- 行政書士(経産省申請・住民周知準備支援含む): 8万8千円〜30万円程度+実費(※説明会開催支援を含む複雑な地域などの場合はもっと実費がかかり高くなります)
- 司法書士(不動産登記): 5万円〜15万円程度 + 登録免許税(実費)
第7章:2025年度以降の地域共生要件と事業者の責任
最後に、少し先の未来の話をします。国は現在、「地域と共生する再生可能エネルギー」を強力に推進しています。
2025年度以降は、これまで以上に「地域への貢献」や「適切な廃棄処理」へのコミットメントが事業者に求められるようになります。2026年2月頃には経産省から「地域共生マーク(仮)」のような顕彰制度も発表される予定です。
今、手間をかけてしっかりとした名義変更・住民周知を行っておくことは、単なる義務の履行だけでなく、将来的に「優良な発電所」として資産価値を高めることに直結します。適切な手続きを経た発電所は、次の売却時にも高く評価されるでしょう。
まとめ
太陽光発電所の名義変更は、単なる事務手続きではなく、「事業の責任を引き継ぐための重要な儀式」です。特に2024年の改正で加わった住民周知は大変ですが、これをクリアすることで地域との信頼関係が築け、長期安定稼働につながります。
最終確認チェックリスト
- 旧所有者から「設備ID・ログイン情報」を受け取ったか?
- 発電所の規模と「影響エリア」を確認し、住民周知の方法(ポスティングor説明会)を確定させたか?
- 周知措置の実施記録(写真・名簿等)を残したか?
- 土地の登記簿謄本、印鑑証明書などの公的書類は揃ったか?
- 経産省(JPEA)への変更認定申請を完了させたか?
- 認定通知が届いた後、電力会社へ名義変更を申し込んだか?
- 土地の所有権移転登記を完了させたか?
一つひとつ確実に進めていけば、必ず手続きは完了します。この記事が、あなたのスムーズな事業承継の一助となれば幸いです。

